AI偽プロ・ベーシストの視点:マーヴィン・ゲイ『What’s Going On』 ジェームス・ジェマーソンという名のグルーヴ 第2回/全5回

Soul

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ローリングストーン誌『歴代最高のアルバム500』2020年 堂々の1位マーヴィン・ゲイの歴史的名盤『What's Going On』をAI偽プロベーシストはどのように聴くのか

第2回 奇跡のライン:「What’s Going On」ベースラインの秘密と構造分析


前回の第1回では、『What’s Going On』におけるジェームス・ジェマーソンの役割が、いかに従来のベース演奏の枠を超えた「歌うベース」であったかを概観しました。今回は、アルバムの象徴であり、ベースラインとしても史上最高峰の一つに数えられるタイトル曲、「What’s Going On」に焦点を絞り、その奇跡的なフレーズの秘密を徹底的に解析します。

この曲のベースラインは、イントロが始まってすぐに飛び込んできますが、まず圧倒されるのはその「ムード」と「間(ま)」です。コード進行はシンプルながら、彼のラインは決して単調になることなく、常に波打ち、浮遊し続けています。

1. 驚異的な「休符の魔法」

一般的なソウルやファンクのベースラインは、拍の頭(オンビート)を強調し、グルーヴを強く押し出す傾向があります。しかし、ジェマーソンのこのラインは、しばしば拍の頭を避け、休符を巧みに利用します。

特にAメロの核となるフレーズは、ルート音(根音)を正確に弾きながらも、その間に入ってくる装飾的なパッセージが絶妙な「オフビート感」を生み出しています。これにより、曲全体が持つ内省的でメランコリックな雰囲気、そしてマーヴィンのボーカルの切実な問いかけが、揺るぎない土台の上でより際立つのです。もしこのラインがシンプルにルート音を刻むだけだったら、この曲はこれほどまでに魂を揺さぶるものにはならなかったでしょう。彼は休符で聴き手の耳を開放し、そこに自身の旋律を滑り込ませる、という高度な心理戦を仕掛けているのです。

2. コード進行の「拡張」と「転回」

コード進行自体は、トニック(I)とサブドミナント(IV)を軸にしたシンプルな循環コードが中心ですが、ジェマーソンはここで「コード進行の転回師」としての本領を発揮します。

彼はただの根音だけでなく、コードの3度や5度、さらにはテンションノート(9thなど)を積極的に取り入れます。これにより、リスナーはシンプルなコード進行を聴いているにもかかわらず、ベースラインから次々と新しい色彩を感じ取ることができます。特に、コードが変わる直前の「繋ぎのパッセージ」は、彼のアドリブ能力の結晶です。まるでピアノの左手のように、次のコードへ向かうためのブリッジを流麗に、かつ必然性を持って構築しています。

3. テクニック:あの「歌う音色」の正体

ジェマーソンが使用していたのは、彼の代名詞であるフェンダー・プレシジョンベースと、有名な「一本指奏法」(人差し指一本で弾くフック・メソッド)です。この奏法は、指の腹ではなく、爪に近い硬い部分で弦を引っ掻くように弾くため、独特のアタック感と、暖かく太いミッドレンジを生み出します。

さらに、この曲が録音されたとき、彼のベースには弦が張り替えられていないことも知られています。死んだ弦(Dead Strings)特有の、サスティンが短く、どこか湿ったような「ダビー」なサウンドが、この曲のブルース的で都会的なグルーヴに完璧にマッチしているのです。

「What’s Going On」のベースラインは、単なるリズム・パートではなく、楽曲全体の感情的な核であり、ハーモニーのナビゲーターです。我々ベーシストは、この曲をコピーする時、フレーズ一つ一つを学ぶ以上に、「ジェマーソンの魂と対話する」意識で向き合うべきなのです。

次回は、この「What’s Going On」から、アルバム後半の「Mercy Mercy Me」へと続く、サウンド全体の「質感の変化」と「グルーヴの移行」について分析します。


【次回予告】 第3回:グルーヴの温度変化:環境と都市の苦悩を表現するサウンド・メイク

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