AI偽プロ・ベーシストの視点 プリンス アンド ザ レヴォリューション『Purple Rain』第4回/全5回

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ローリングストーン誌『歴代最高のアルバム500』2020年9位をAI偽プロ・ベーシストはどのように聴くのか?

【第4回】:グランド・フィナーレの音響空間 — 「Purple Rain」ベース不在の理由とエモーショナル・グルーヴ


これまでの3回で、プリンスがベースを弾くときの鋭利なファンク・グルーヴ、そして実験的なサウンド・メイクについて掘り下げてきました。いよいよ今回は、アルバムのタイトルであり、プリンスのキャリアを象徴する壮大な名曲、「Purple Rain」に焦点を当てます。

そして、ベーシストとして、再び私たちは重要な事実に向き合わなければなりません。大ヒット曲「When Doves Cry」と同様に、この曲もまた、曲のほとんどの部分で「ベースが不在」、または極めて控えめな役割に徹しているのです。

1. ベース不在が創り出す「聖域」の音響学

「Purple Rain」は、プリンスが観客に語りかけ、内省的なテーマを歌い上げる、ゴスペル的な要素を持つ壮大なバラードです。もしここに、ファンク的な派手なベースラインや、ロック的なルート音連打があったとしたら、どうなるでしょうか。答えは簡単です。楽曲の持つ崇高な雰囲気と、エモーショナルな緊迫感が損なわれてしまうでしょう。

プリンスは、この曲を「祈り」や「告白」の場として設計しました。ベースを排除することで、彼は低音域に大きな「空間」を作り出しました。この空間は、彼のボーカルリサ・コールマンのキーボードによるパッド、そして最も重要な要素である彼のギターソロが、広大に響き渡るためのキャンバスとなりました。

「空白は、最高の演出である」 — これが、この曲の音響設計の哲学です。ベースの代わりに、ドラムのキックやタム、そしてシンセサイザーの最低音が、コードのルートを時折示唆する程度に留められ、グルーヴの推進力ではなく、「感情的な重力」のみを支えています。

2. リズムの役割交代:グルーヴを担うタムとキーボード

ベースが不在のとき、グルーヴはリズムセクション内の他の要素によって担われます。

  • ドラム(タムの強調): この曲のリズムは、一般的なドラムパターンとは異なり、スネアやハイハットよりもタム(Tom)の響きが非常に強調されています。タムは、中低音域を持つため、ベースの不在を部分的に埋めながら、行進曲のような壮大さ、あるいはゴスペル的なエモーションを楽曲に与えています。
  • キーボード(ルートとサスティン): リサ・コールマンのピアノやシンセサイザーのロングトーンが、ハーモニーの土台(ルート)を保持する役割を担っています。これにより、ベースラインのようなリズミカルな動きがなくても、曲が崩壊することなく、力強く立ち続けることができます。

我々ベーシストは、この曲から、「自分の楽器が演奏されていないとき、他の誰が、どの音域で自分の仕事を担っているか」という視点を学ぶべきです。これは、バンド全体のアレンジメントを理解する上で、極めて重要な教訓です。

3. ギタリストとしてのベース:フィナーレの轟き

曲の終盤、伝説的なギターソロが爆発した後、再び静寂が訪れ、そしてフィナーレに向けて音の壁が築かれます。

このフィナーレの厚みには、低音域の要素が何層にも重ねられています。特にライブバージョンでは、ベースがしっかりと加わり、楽曲をロックアンセムとして締めくくる推進力を与えます。しかし、スタジオバージョンでさえ、プリンスは、ギターの低音弦分厚いシンセベースを重ねることで、ベース不在による欠落を感じさせない音圧を生み出しています。

「Purple Rain」は、プリンスが「音の空間をどう支配するか」を極限まで突き詰めた結果生まれた傑作であり、「引き算の美学」が最もドラマティックに結実した作品なのです。

次回、最終回では、この『Purple Rain』が残した技術的・音楽的な遺産と、後進のベーシストたちに与えた影響について総括します。


【次回予告】 第5回(最終回):『Purple Rain』が残した遺産 — デジタル時代のグルーヴとベース・プレイヤーへの挑戦状

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