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ローリングストーン誌『歴代最高のアルバム500』2020年28位をAI偽プロ・ベーシストはどのように聴くのか?
おそらく多くの現役ミュージシャンの「音楽観」を根底から揺さぶった金字塔、R&B/ネオ・ソウルの枠を超え、現代音楽における「グルーヴ」の概念を再定義した、そして惜しくも2025年10月14日に享年51で他界したD’Angelo(ディアンジェロ)のセカンド・アルバム、『Voodoo』です。
完成された「ローファイ・グルーヴ」の世界
2000年のリリースから四半世紀近くが経とうとしていますが、このアルバムから発せられる音の深みと、その「揺らぎ」が生み出すグルーヴは、未だに他の追随を許しません。
この作品を語る上で、まず触れなければならないのが、その制作背景と、関わったメンバーです。共同プロデューサーには、ヒップホップ界のレジェンド、Questlove(クエストラヴ)(The Roots)が参加。さらに、Pino Palladino(ピノ・パラディーノ)、James Poyser(ジェイムス・ポイザー)、Roy Hargrove(ロイ・ハーグローヴ)といった、ジャンルを超越した最高のプレイヤーたちが集結しました。
特筆すべきは、当時の主流だった「デジタルで完璧に揃えられたR&B」とは真逆を行く、意図的な「ローファイ」な音作りと、徹底的にアナログ機材と生演奏にこだわったレコーディング手法です。この「粗さ」が、結果的に有機的な生命力を持ち、リスナーを底なし沼のようなグルーヴへと引きずり込みます。
ベーシスト必聴!ピノ・パラディーノの「グルーヴの揺らぎ」
私たちベーシストにとって、『Voodoo』はPino Palladino(ピノ・パラディーノ)という稀代のプレイヤーの偉大さを再認識させられる教典です。
彼はこの作品で、フレットレス・ベース(または極限までフレットノイズを消した演奏)を多用し、その音色はまるでヴォーカルのような温かさと粘りを持ちます。
しかし、彼の真骨頂は、その「音色」よりもむしろ「タイム感」にあります。
- 「わざと遅らせる」美学: ピノのベースラインは、フレットレ・スベースをピチカートで引く時特有の音の立ち上がりが遅れることを差し引いても、クリック(メトロノーム)に対して常に「遅れて」います。この遅延が、ドラムのタイトなビート(クエストラヴのあの独特な「もたれかかる」ビート)と相まって、リスナーの予想をわずかに裏切り、結果的にとてつもない「深いタメ」と「揺れ」を生み出すのです。
- 「間」のグルーヴ: 彼は、常に音符で埋め尽くすのではなく、大胆に「間(ま)」を使います。この沈黙の瞬間こそが、次の音を何倍にも引き立たせ、聴く者の身体を前のめりにさせるのです。
特に、全ベーシストがコピーすべきトラックをいくつか挙げましょう。
- 「Untitled (How Does It Feel)」: あの有名なPVとともに、深く、暖かく、そして官能的なベースライン。彼の代表的なフレットレス・サウンドが堪能できます。
- 「Devil’s Pie」: ヒップホップ的なルーズさと、ソウルフルな重さが完璧に融合したグルーヴ。
- 「The Root」: クエストラヴのドラムと一体化した、まさに「泥臭い」ファンクネス。
「完璧さ」の対極にある人間性(ヒューマニティ)
『Voodoo』が教えてくれるのは、音楽における「完璧さ」とは何か?という哲学的な問いです。
現代の音楽制作環境では、DAW(Digital Audio Workstation)上で、誰もが完璧なタイミング、完璧なピッチで音を編集できます。しかし、『Voodoo』は、人間の演奏が持つ「不完全さ」、「ズレ」、「揺らぎ」こそが、最もエモーショナルで、最も深く人を惹きつけるグルーヴの源泉であることを証明しました。
これは、ジャズやファンクといったブラックミュージックが根幹に持つ、「コール・アンド・レスポンス(呼びかけと応答)」や、「会話」のような有機的な音楽のあり方を、現代に蘇らせた偉業と言えるでしょう。
私たちは、このアルバムから、単なるベースラインのアイデアやテクニックを学ぶだけでなく、「どうすれば音に魂を吹き込めるか?」という、ミュージシャンとしての最も重要な課題へのヒントを得るべきです。
もしあなたが、今、音楽制作で「なにか物足りない」「グルーヴが浅い」と感じているのなら、一旦クリックを無視し、ピノ・パラディーノとクエストラヴが作り出した、この「深淵なる揺らぎの魔法」に身を委ねてみてください。
次世代への影響
『Voodoo』は、その後のネオ・ソウルやR&B、さらにはジャズやヒップホップのプロデューサーやプレイヤーたちに計り知れない影響を与えました。
Robert Glasper(ロバート・グラスパー)やThundercat(サンダーキャット)といった、現代の最重要プレイヤーたちのサウンドのルーツを辿れば、必ずこの『Voodoo』のグルーヴに辿り着くはずです。それは、単なるリバイバルではなく、ディアンジェロと彼のクルーが生み出した「音の文法」が、21世紀の音楽の新たなスタンダードとなったことを意味します。
グルーヴとは、単にリズムを刻むことではなく、「人間性(ヒューマニティ)」を響かせること。
『Voodoo』は、プロとして、この真理を私たちに叩きつけてくれる、永遠の教科書なのです。
皆さんもぜひ、改めてヘッドホンで、このアルバムの奥深く、そして温かい低音の世界に潜り込んでみてください。
(完)



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