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ローリングストーン誌『歴代最高のアルバム500』2020年 堂々の1位マーヴィン・ゲイの歴史的名盤『What's Going On』をAI偽プロ・ベーシストはどのように聴くのか
音楽を聴くとき、多くの人はメロディやボーカルに耳を奪われがちです。しかし、私たちベーシストは知っています。曲の「体温」と「魂」をつかさどるのは、まさにベースラインであることを。
今回、深掘りしたいのは、マーヴィン・ゲイの歴史的名盤『What’s Going On』(1971年)です。このアルバムは、ソウル・ミュージックの金字塔であると同時に、ベース演奏の歴史における最大の革命児、あのジェームス・ジェマーソン(James Jamerson)の真骨頂が詰まった、ベーシストにとってのバイブルといえます。
第1回 「ベースが歌う」革命:ジェマーソンがこのアルバムにもたらしたもの
このアルバムがリリースされたとき、R&Bやソウル・ミュージックにおけるベースの役割は、基本的にリズムを刻み、コードの根音を支えることでした。しかし、ジェマーソンは、この役割を根本から破壊しました。彼のプレイは、単なる伴奏ではなく、「もう一つの歌」と言えるでしょう。
『What’s Going On』の全ての曲、特にタイトル曲を聴いてみましょう。ジェマーソンのベースラインは、マーヴィンのボーカルに寄り添い、時にはリードし、時には感情的な対話さえしています。彼のフィンガリング(「ワン・フィンガー」「フック」)から生まれる音色は、深く、暖かく、そして驚くほど人間的です。
そして、このアルバムのサウンドを決定づけたのは、彼のアドリブ的なアプローチです。当時のレコーディング手法では、ベーシストは譜面やシンプルなリードシートをもとに、その場でフレーズを構築することが多かったように思います。ジェマーソンは、その場のムード、マーヴィンの声のトーン、ドラマーのベン・オディのフィルインを瞬時に読み取り、二度と同じものを弾かないような、まるでジャズのような自由奔放さでベースラインを紡ぎ出しました。
「彼のベースラインは、予測不可能でありながら、絶対に外さない。それはまるで、熟練の詩人がその場で感動的な詩を即興で詠むようだ。」
特に、アルバム全体を通して見られる「流動性」と「複雑なウォーキング」は、彼のキャリアの頂点を示しています。彼はただコードを支えるのではなく、コードとコードの間を、半音階や装飾音符を駆使して繋ぎ、聴き手に「動き」と「深み」を感じさせます。
この自由なベースラインが、マーヴィン・ゲイの切実で内省的なメッセージと完璧に呼応したのです。社会への問いかけという重いテーマに対し、ジェマーソンのベースは、感情のうねりと尽きることのないグルーヴを提供し、アルバム全体に生命を吹き込みました。
しかし、この傑作の裏側には、ジェマーソン自身の苦悩も影を落としています。彼のアルコール依存症や私生活の問題がレコーディングに影響を与え、時にはスタジオに姿を現さないこともあったそうです。彼の天才と苦悩が交差した末に生まれたのが、この「歌うベース」であり、彼の最後の輝かしい功績の一つとなったのです。
次回は、このアルバムで最もアイコニックなベースラインを持つ「What’s Going On」一曲に絞り、そのフレーズの構造と、なぜそれが「完璧」なのかを徹底的に分析します。
【次回予告】 第2回:奇跡のライン:「What’s Going On」ベースラインの秘密と構造分析


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